Arrnimal High School 第一章 「ワンダーランドと不思議の学園」





放課後の校舎にチャイムの音が響く。

 

もう人影すら見当たらないが、生徒会室には2人分の影が

ゆらゆらと揺れていた。

 

 

 

「もしかしたら…彼女は、本当に『救世主』なのかもしれないな…。」

 

会長は持っている書類に視線を落としながら呟く。

 

「もし、本当にこの世界が『あの人』の言うと通り、破滅に向かっているのだとしたら…。

彼女は迷いを乗り越えれば、この世界を救うべき存在になるだろう……。」

 

 

そう話す会長の前を横目に、生徒会室にいるもう1人は静かに扉を開けた。

「オイ、どこに行く?」

 

やや不機嫌そうに会長が問うと、問われた人は

先程まで読んでいた本を掲げながら、答えた。

 

「本を返しに行くついでに…噂の『彼女』に会いに……ね。」

 

 

逆光でその表情はしっかりとは見ることが出来なかったが、

口元は穏やかな笑みを浮かべていて。

会長は書類を机に投げ出すと「あぁ、そうですか」と投げやりに答え、

バタンと閉じた戸を呆れたように見やった。





第6話 Signpost Of Evening sun






一人黙々と本に視線を落とす。

先に帰るといううさぎたちと別れて、何時間たったのだろうか。

アリスは手元の本を閉じると、大きくため息を吐いた。

 

「焦る事はない、か………。」

 

自分にまるで、言い聞かせているみたいだ。

アリスは一人、心の中で呟くと苦笑して座っていた椅子から立ち上がった。

 

 

 

その時、聞いた事の無い声が、背中に降りかかる。

 

「読書は終わったかな?」

アリスが慌てて振り返ると、そこには会った事の無い男子生徒が立っていた。

 

(クラスメイトだったかな…?)

 

記憶を急いで探ってみるが、心当たりは無い。

これでも記憶力には自信があるのだ。

ちらりと男子生徒を見やると、手に何冊か本を持っていて。

もしかしたら図書委員かもしれない、ということでとりあえず落ち着く事にした。

 

「ごめんなさい、もう閉館時間ですか?すぐ出て行きますから」

「あぁ、違うんだよ。僕も本を返しに来たんだ」

 

 

本を掲げるとにっこり笑って。

 

よくよく見ると、その青年はとても『綺麗』なのだ。

 

すらりと長い手足に細身の体、髪は少し長めで一つに結って前に流してある。

女性、といっても通用するのではないか。

ただ見惚れていると、青年はやはりにこにこと笑いながらアリスに言う。

 

「君が噂の転入生のアリスちゃん、だね?君の事はいろいろな人達から聞いているよ。」

 

すっと手がアリスに差し出されて。

 

 

「僕の名前は『ミント』……よろしくね」

 

おどおどとしながらも差し出された手を握り返し、握手を交わす。

にっこりと笑うミントにつられてか、アリスもニコッと笑った。

 

 

 

 

「いろいろ、大変だったんだね」

 

今までの経緯を軽く説明すると、ミントは優しい口調でアリスに告げる。

 

「…実はアリスちゃんが壊してしまった時計なんだけれどね…」

 

 

『時計』

その言葉に、自分でも驚くほど異常に反応する。

 

「僕の祖父が今、直しているんだよ。完全修復までもう少しかかりそうで……ごめんね?」

「い、いいえっ!そんな…ありがとう、ございます」

 

深々と頭下げるとアリスは、ほっと息を吐き出した。

 

 

(あれ?)

 

 

どうして。

こんなに心が解れていくのか。

心のどこかで、『良かった』…そう呟く自分がいる。

 

私は望んでいるのでしょ?帰りたいと。

帰ればきっと、姉も母も父も…心配しているに違いないのに。

 

…どうして。

 

 

 

『本当に帰る気あるの?』

 

メイが告げた言葉が頭の中を何度も反芻して響く。

『私は、』

…きっとその先の言葉を、私は未だ見つけられない。

 

 

 

 

「アリスちゃん、はい。」

 

そう言って一冊の本をミントが差し出す。

アリスは目を見開くと、差し出された本とミントを交互に見やって。

 

「この本…とてもいい本なんだ。気晴らしに読んでごらん?貸し出し届けも書いておくから」

 

ミントが苦笑を漏らしそう言うと、アリスは『ありがとうございます』と、慌てて本を受け取った。

 

「返すのは…文化祭も近いし、2週間後でいいよ。本当は一週間なのだけど」

秘密ね、とミントは微笑むと…次の瞬間、ふと表情を真剣なものに変えた。

 

 

「さ、もう帰ったほうがいいよ。……日が暮れてしまうから」

 

 

 

その笑顔はどこか、深い深い海のように。

 

 

 

アリスはちらちらとミントの方を振り返りながら、図書館から出た。

一人残ったミントはクスクスと笑い、呟く。

 

「確かに……面白いかもしれないね、彼女は」

 

夕日はゆっくりと沈みながら、ミントの横顔を照らしていた。

 

 

 

***

 

 

 

アリスはミントから受け取った本を眺めながら、とぼとぼと歩く。

今日は、少し色々な事がありすぎた。

 

焦る事はないと、わかっていても

私は見たいのだろう…その先を。

 

 

(帰ったら、うさぎにいろいろ聞いてみよう…。)

アリスは本をぎゅっと抱え込むと、少し歩幅を広げて歩き出した。





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